元衆議院議員(茨城県第6区)[無所属]大泉ひろ子オフィシャルサイト -大泉ひろこの徒然草(つれづれぐさ)-
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日々雑感
[2019/07/10]
トマトのGABA



 過日、江面浩筑波大教授、つくば機能植物イノベーション研究センター長のお話を聴く機会を得た。先生は主にトマトを対象に次世代遺伝資源の開発、その分子機構解明を通して人類の食料の質的量的拡大を追求する。また、先生は全国のみならず中国など海外でも啓蒙活動に大忙しである。
 
 遺伝子組み換えは厳しく規制する傾向にあるが、先生はこれとは厳密に異なる、ゲノム編集という技術を使う。前者は、遺伝子の数を増やすのに対し、後者は遺伝子の数は元のままである。したがって、ゲノム編集の規制のほうが緩い。

 いずれノーベル賞といわれる、アメリカで開発されたcrisper-cas9というゲノム編集技術によって、トマトの日持ち性、高糖性、機能性物質の蓄積などの画期的な改良が行われる。crisper-cas9は、自然界で大腸菌が果実に作用した方法を技術にしたものだ。
 
 先生の研究から、トマトにGABAと呼ばれるアミノ酪酸の一種が高蓄積される品種が作られた。GABAは血圧を下げる働きを持つ。これは、朗報である。最近、日本高血圧学会が、アメリカのデータを用いて高血圧の定義を変え、高血圧予備軍が増加する見込みだからである。

 しかし、降圧剤には、副作用も報告されている。そもそも高血圧は病気ではなく、心臓病などのリスク要因にすぎない。だとすれば、東洋では、昔から医食同源の考えがあるのに従って、食を通して体質改善できればそれに越したことはない。トマトはその有力候補になる。

 江戸時代、食糧増産のため、青木昆陽が普及させたサツマイモは、自然界で微生物が根のDNAに入り、ゲノム編集されて根が太くなったものだという。トマトは、原産はペルーで小粒だったが、スペイン植民地時代に欧州に運ばれ、今では数えきれない種類に改良されている。

 日本は、トマトを食べ始めて百年、トマト好き国民らしい。団塊世代の筆者が子供のころ食べた小ぶりの酸っぱいトマトは現在市場にはない。見目が美しいだけでなく、GABAのような機能を持ったトマトは身近なイノベーションである。江面先生の研究にさらに期待したい。

[2019/07/06]
児童虐待に有効な政策とは



 最近再び、児童が親の虐待によって死亡する事件が相次いでいる。児童相談所が虐待の存在を把握していながら、児童を死に追いやったケースは憤懣やるかたない思いである。
  
 児童虐待や少年犯罪は社会を騒がせ、制度改正がそのたびに行われるが、しばらく沈潜し、再び同様の事件が起きるという循環の「波」の中にある。なぜ根本解決が図られないのだろうか。

 福祉は、医療と同様、「予防」が難しい政策分野である。事件が起きるたびに、虐待の可能性のある家庭に介入する「アウトリーチ」事業が試されてきたが、そもそもアウトリーチは法制化が困難である。予防的に家庭に入り込むことが簡単には許されないからである。

 日本では、児童虐待は児童福祉法を中心に、行政の役割が大きい。欧米では司法介入が大きく、その違いは、行政は裁量範囲が広く、司法はより権力的に対応する。悪い言い方をすれば、行政の「介入しなくてよい」裁量行為は起こりやすい。従来行われてきた議論は、「日本も司法手続きを強化すべき」であり、実際にその方向に向かってはいる。

 しかし、手続き的な解決以上の問題がある。福祉では、虐待児の家族再統合を究極の目的とするが、家庭「信仰」は危ういと筆者は考える。虐待が発生する背景には、親の軽度な知的障害や精神障害、親自身の生育時トラウマなどが必然的に存在し、「あたりまえの家庭」に戻すという考え方自体が理想に走りすぎている。社会養護や新たな家庭の提供などを整備するほうが現実的である。

 以上は、現制度を前提にした議論であるが、これまでも少しづつ前進し、児童相談所への通告も年々増加し、体制の強化も図られてきた。しかし、根本的な解決には程遠い。だから、同じ事件が繰り返されることになる。より根本的な解決方法として、児童虐待を含む要保護児童政策を民間に委ねることも考えられよう。

 福祉は内務省時代からの警察行政である。しかし、1997年の介護保険法、2000年の社会福祉法は、福祉を警察行政の根幹である措置制度から民間市場に移行させた。その時点では、保育所はその流れになじむと考えられたが移行せず、まして要保護児童政策が民間に移行することは問題外であった。

 しかし、警察行政で行われている限り、虐待のような家庭の奥で行われているものに対応できない。要保護児童政策は基本的に都道府県管轄であり、広域で行う以上は需要が見落とされがちだ。また、第一線の児童福祉司をはじめ人材が頻繁に人事異動し、定員も大幅に増やすことはできない。民間に委託し、時間制約もなく、地域制限もなく、また人材の年齢制限もなく、機動的に対応できる体制を作ることは一考に値する。現に、イギリスではこの方法をとっている。

 また、日本の社会では、児童虐待、少年犯罪、あるいはセクハラのような社会問題に徹底的な議論が行われていないと筆者は思う。「そういう犯罪者は特殊な人であり、自分は関係ない」と思っている人が多い。「かわいそうだ」で、すべて終わってしまう。

 1990年代、筆者が当時の厚生省児童家庭局の課長をしていたころ、児童行政に参考になったのは、アメリカの映画だ。障碍者が人生の幸運をつかむ「フォレスト・ガンプ」、非行少年が性的虐待を受けたかつての看守に復讐する「スリーパーズ」など、ハンディを持った人々の生きる力を描いたものが多かった。日本の社会も、児童虐待をはじめとする社会問題に対し、「かわいそう」は止め、積極的な克服に向けての文化を養成していくべきだ。

[2019/06/20]
宇宙に夢を託せるか



 世俗を騒がせているのは、金融庁の報告書「老後には、年金以外に2千万円の蓄えが必要」である。多くの年金生活者は、年金だけで食べていくのは難しいことを知っている。さりとて、少子化で若い人に負担を強いるのも心苦しい。こんな時代に、宇宙に目を向け、宇宙科学とさらに宇宙ビジネスの発展に思いをはせる余裕はあるだろうか。

 しかし、国はあらゆる分野でしのぎを削っていかねばならない。おりしも、はやぶさ2が小惑星リュウグウにタッチダウンし、いよいよ岩石の採取を始めるというニュースが飛び込んできた。はやぶさ初号に続く日本の宇宙科学における快挙だ。重力のほとんどない小惑星の岩石は、太陽系誕生のなぞに迫る材料を与えてくれるという。
 
 同時に、この快挙は、日本のイオンエンジンや宇宙太陽光パネルなど高い技術を世界に示す機会にもなる。この事業を担うのがJAXA(宇宙航空研究開発機構)である。2003年に3機関が統合して発足したJAXAは、現在、国立研究開発法人になって、職員1500余人、予算は1500余億円のいわば日本の国策を遂行する機関だ。

 しかし、現在では、宇宙に関しては国策だけではなく、アストロスケール社など民間事業者が宇宙旅行ビジネスに参入し、民主導の宇宙ビジネスが有望になっている。JAXAは、ベンチャーとの連携や技術協力など新たな方向に踏み出している。まさにその話をJAXA新事業促進本部の杉田尚子課長にお聞きしたばかりだ。

 世界の宇宙産業の規模は404億ドル。その内、半分はアメリカ、アメリカの10分の1が日本である。EU、仏、独など欧州を合わせると日本はその5分の1である。中国は日本より多く、ロシアは少ない。インドなどの新興国も宇宙産業に乗り出していることが知られている。つまり、宇宙産業は国力を競う舞台でもある。

 JAXAはまさにナショナルフラッグを背負って、民間宇宙ビジネスに取り組んでいるが、アメリカに比べると2周遅れの感があると杉田課長は言う。それでも、昨年政府が公表した「宇宙産業ビジョン2030」は、安全保障確保、宇宙利用の拡大、宇宙科学の成果などがビジョンとして描かれ、日本の第4次産業革命に資するとしている。大いに期待したい。

 世俗の安寧福祉と科学を駆使した新時代への夢、その二つは両立してほしい。
 
 

[2019/06/08]
多自然主義



 多自然主義の自然保護学者である岸由ニ慶大名誉教授の話を聴く機会を得た。先生は、手つかずの自然を理想とする「近自然主義」に対し、人間の活動とともに変化する生態系の現実に沿って進める「多自然主義」を唱える。
 
 岸先生は世界的な名著、ドーキンス著「利己的遺伝子」の翻訳者の一人であり、筆者は大いに興味を惹かれた。そして、筆者の長年の疑問は、自然保護主義が、原発反対、自衛隊反対とともにラディカルの政策パッケージに入ってているのはなぜかであり、答えが欲しかった。結論から言うと、岸先生は見事に答を示唆した。

 多自然主義は、人間の活動を進めることに反対せず、また、外来種をそれだけの理由で敵視するのではなく、それらと調和をとりながら新たな生態系を作っていくという考えである。先生は、この考えを以て、自然保護の現場と学問を往復しつつ、政府や自治体の都市計画に具体的に携わってきた。

 神奈川県の鶴見川流域では絶滅寸前のアブラハヤを流域内移動で蘇らせた。その時はラディカル団体から、アブラハヤを移動させるのは遺伝子攪乱だと反対された。科学的根拠はない。他方、政府や官僚には明らかな開発主義者がいて、自然保護に興味を持たないために仕事が進められないこともあった。左と右の対立の間隙を縫うような形で自然保護に勤しんだのである。これを聴いて、多自然保護は近自然保護(ラディカルの多くはここに属する)と異なり、開発主義に対抗するためではない、科学的根拠を重視する発想だと理解した。

 三浦半島の滝の川流域にある小網代では、耕作放棄地のササを刈って大規模な湿原地を回復させた。現場での仕事を続けるうちに、先生は流域思考にたどり着く。流域とは水のある生命圏を生きる人類の足元に広がる生態系だという。したがって、流域開発が自然に委ねる自然保護の方法そのものである。一旦は、国交省の理解も得た。

 しかし、現在は残念ながら、国交省は、流域開発ではなく、里山構想を政府の看板事業にしている。看板事業はある日突然変わるそうだ。確かに、里山も中山間地も、果てはソサエティ5も国民に示されるときは内部の審議が終わってからだから、いつも突然でしかも科学的説明が下手だ。里山など誤解だらけで、何が目的なのかも一般に知られていない。

 特に、筆者のような都会育ちは、「ウサギ追いしかの山」が日本人の故郷だと言われると違和感を持つくらいだから、理屈の分る自然保護政策でなければ納得しない。その意味では、科学的根拠も明確で、政府よりも説明がうまく、ラディカルの教条主義に与しない岸由ニ先生の話は、実に腑に落ちた。

[2019/05/28]
宇宙風化



 月面の黒い影は、昔から、ウサギが餅をついている姿だと伝えられてきた。外国でも何かの形になぞらえて語られてきたと言う。宇宙に影絵師がいて、時にはかぐや姫を降下させることもした。

 科学では、月の黒い影は、いわば日焼け(宇宙焼け)で色が変わった部分だと説明される。はやぶさ初号が小惑星イトカワにもこの宇宙焼け(厳密にいえば表面に近いところの物質の変化)があることを発見し、これは月と同様の宇宙風化によるものと説明され、宇宙風化は科学の世界で証明された。
 
 宇宙風化の第一人者である廣井孝弘・米ブラウン大学上級研究員は隕石の研究者であり、2006年にネイチャー誌にこのことを明らかにしたが、初めは、「宇宙風化は存在しない」という科学上の反対派に阻まれて論文の掲載も難しかったと言う。先生は、今回のはやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰るであろう物質の宇宙風化も予言していて、かつ、はやぶさのミッションである太陽系ができたころの不変の物質は宇宙風化の下にあって、持ち帰ることができ、宇宙誕生の理論に大いに貢献するはずだと言う。

 宇宙というと、アインシュタインやホーキングを思い浮かべ、物理の世界と思いがちだが、鉱物・岩石からのアプローチがあることを知った。門外漢には、「物」の存在から理論化されるほうが分かりやすい。ちなみに、アメリカに次いで隕石保有の多い日本だが、隕石はいわば大気圏で焼け焦げになった残骸であり、はやぶさ1・2が持ち帰る「生の岩石」とは異なるという。
 
 はやぶさプロジェクトの快挙で、夢は膨らむが、廣井先生は、日本の宇宙科学予算の少なさやポスドクの扱いの悪さなどを辛口で指摘し、日本の科学への貢献に障害が多いと主張する。それに、宇宙風化について論文掲載が難しかったばかりでなく、科学ジャーナリズムの理解も遅かったと指摘する。これは、2年前、筆者が出席した会議で中村修二先生(青色LEDでノーベル賞受賞)が日本の科学政策やジャーナリズムを批判したことと通じる。
 
 キリスト教など宗教ばかりでなく、ウサギが餅つくなどの迷信も科学研究の前に立ちはだかることが多いのは歴史が教える。非科学性を打ち破るのは、数年後にはやぶさ2が持ち帰る小惑星リュウグウの石だ。「ほらほら、これが宇宙風化。迷信は風化せざるを得まい」。

[2019/05/25]
プレシジョン・メディシン



 プレシジョン・メディシンは、個別化精密医療と訳されている。英語のまま使われているのは、言うまでもなくアメリカがトップを走る研究分野だからである。分りやすく言えば、女優アンジェリーナ・ジョリーが遺伝の家族歴から、発生率の高い乳がんを予防するため乳房を切除した医療のことである。遺伝子分析をもとに行われる。

 日本でも、「未病」すなわち将来ありうる病気を防ぐ医療が学問の分野で意識されてきているが、かかる先進医療は、既得権化した健康保険制度を脅かす可能性があり、医師会の反対があって、厚労省が及び腰だ。

 しかし、この度、島津製作所のフェローであり、コロンビア大での研究歴が長い、筑波大プレシジョン・メディシン開発研究センター長も務める佐藤孝明先生のお話を聞く機会を得、日本がもっと踏み出すべき分野であるという確信を得た。

 先生によると、日本人の遺伝子は、アメリカ人のような混血が少ないためホモジーニアス(同質的)であり、特有の病気とそれにつながる特効薬の発見に有利な研究対象だそうだ。3世代さかのぼってそこに含まれる10家族の遺伝病歴を調べると、特に若年性がんについては、アンジェリーナのように自分自身の将来の発症が予測できる。ガンばかりではなく、うつ病や認知症の予測も可能である。
 
 現在、そのための遺伝子(ゲノム)分析は、日本でも始まっているが、厚労省はゲノム分析の多くをアメリカに頼っているため、日本でも整備を急がねばならない状況にある。分析に必要な次世代シークエンサーという高額の機器も海外からの輸入である。

 平等でアクセスに優れた我が国の健康保険は誇るべき制度ではあるが、それが先進医療を阻害するのであれば、日本の将来にとって好ましくはない。厚労省が決めた「標準医療」以上を求めるなという姿勢や、ノーベル賞受賞者本庶佑先生が開発したオブジーボに関し、先生とドル箱を得た小野薬品との間で和解が成立していないように、低コスト化や対象拡大に向けての研究に十分な資金が流れないようでは、先進国の面目が立たぬ。

 はやぶさ2の快挙によって、宇宙開発のニッチの分野で日本の業績が燦然と輝くことが確かめられたように、ホモジーニアスな遺伝子を使って、日本の研究が先陣を切るように乗り出すべきである。かつて某政治家が「一番でなくて二番ではいけないの」と暴言を吐いた、その考えこそが日本の夢と可能性を潰すのだということを痛感する。

 

[2019/05/02]
先進茨城県はあるのか



 茨城県人の自虐ネタは「相も変わらず全国魅力ある県47位、つまりビリ」であることだ。茨城県人の自慢は「農作物の北限南限のすべてが穫れる全国2位(時に3位)の農業県」であることだ。これだけ見ても、茨城県は印象が薄く、全国に知られていない県と言ってよい。

 歴史をたどれば、尊王攘夷の源である水戸藩は、桜田門外の変で失敗し、後進藩であるはずの薩長に尊王攘夷の旗手を奪われ、明治の藩閥政府の下では冷や飯食いになった。水戸藩(茨城県)の得た公職はお巡りさんばかりだった。
 
 そのせいもあって、近代政治になっても大物政治家が登場せず、梶山静六が総裁選に出たのが頂点で、勿論、総理大臣の登場は誰も期待していない。安倍首相が山口県(長州藩)8人目の総理であるのとは対照的だ。

 しかし、尊王攘夷を掲げたこの2つの県はその保守性において相似する。ただ、同じ保守でも中身は違い、長州(山口県)が成り上がり者の策士と陰険さを持つのに対し、水戸(茨城県)はあっけらかんの風情で、他人に褌(ふんどし)を取られても気づかないような楽観主義だ。

 そんな風土だから、戦後公選知事になってから、初代の官選知事からの転換を除くと、60年近くもたった3人の知事がいずれも長く藩主のごとく「君臨」してきた。変化を拒む保守性の土壌は、茨城県を知名度の低い特徴のない県にしてきた。2017年、通産省出身、トップビジネスマン、海外にも通用する大井川現知事が現職を破って当選したときは、何かが変わるという期待感が久しぶりに漂った。
 
 しかし、優秀であるはずの現知事もかなわぬ保守性の壁に突き当たったのかもしれない、やはり茨城は茨城のままだ。県庁の組織改正も驚くほどのものではない。

 ところが、ここに来て、現知事がLGBTのために差別禁止の条例を制定したいと意思表明したのである。知事の国際社会での活躍歴や夫人がリベラル弁護士であるという観点から見れば、決して驚くべきことではないのだが、保守土壌は今、騒然としている。LGBTのパートナーシップを積極的に認めるのは、渋谷区、世田谷区、杉並区などいずれも都内であり、しかも、首長はリベラル系だ。大井川知事は自民が推す保守系なのである。

 どうやら自民党の反対で、条例まではいきそうにはないが、知事は何らかの形でLGBTの権利確保を約している。このことは筆者が2000年、山口県副知事の時に全国3番目に男女共同参画条例を制定する過程で激しい反対運動に遭ったのを思い出させる。国からの出向だから、筆者は全国に先駆けたかったのだが、保守土壌の下では、47番目になるまで待てばよかったと今では思っている。ちなみに山口県庁が県庁ランシステムを取り入れたのも全国47位だった。
 
 大井川知事さん、LGBT容認を全国に先駆けるのは、茨城県では難しい。魅力ある県47位なのだから、47番目まで待つしかない。それよりも、知事の得意なビジネスの世界で、イノベーションの世界で、先進県を目指してほしい。筆者も老婆となってやっと、土壌が整わなければ種をまいても仕方ないとの思いが先んじるようになった。老婆心からのお願いだ。

[2019/04/22]
定常型社会とイノベーション



 この欄で「夢人口」を語る広井良典京大教授を紹介したことがあるが、過日、彼の話を直接に聞く機会を得た。広井教授は、厚労省の我が後輩であり、若くして学問の世界に移った経歴の人である。久しぶりに会い、「僕は(厚労省の)ドロップアウトですから」と謙遜したが、勿論、そんなはずはない。多くの論壇の賞を取り、日本の未来の道を指南する屈指の人材である。

 広井教授は社会保障政策の学究と紹介されるものの、本質は、科学史・科学哲学をベースとし、農耕社会が始まった1万年の歴史の流れを捉え、現代社会の社会保障を論じる稀有な論客である。「夢人口」では、「現実とは脳が見る共通の夢」と言い、未来不確定の子供、認知能力の低下する高齢者はそれぞれ夢を見る集団であると言う。
 
 今回の話は、定常型社会。経済成長を絶対的な目標としなくても、十分な豊かさが実現していく社会と定義する。ホモサピエンスは1万年前に農耕というイノベーションを起こし、それが定常化するにしたがって、4大文明などが発達した。17世紀には産業革命というイノベーションを科学の発展とともにもたらし、資本主義、民主主義の価値を擁した社会に我々は位置する。

 イノベーションは今も我々の社会のキーワードである。AIやバイオ科学に期待がかかる。しかし、広井教授によれば、資本主義は直近の金融資本主義をもって最終駅に行き着いた。市場原理をベースに成長を追い続ける手法は終焉を迎えると警告する。確かに、人口も先進国における減少に始まり、22世紀初頭100億余りで定常化し、成長を支える要素が後退していく。さらに、地球環境の問題は成長の後退に拍車をかける。
 
 もう成長はいいではないか、産業革命後の新たな定常状態が既に出現し、ポスト資本主義社会の構築を待っていると広井教授は説得する。その姿は1972年、ローマクラブが著書「成長の限界」で、食料・エネルギー危機の到来から人口の抑制を叫んだ姿と重なる。ローマクラブをさかのぼる百年も前に、実はJ.S.ミルは同じことを提唱していた。つまり、定常型社会の論は古くて新しい議論なのだ。
 
 一昨年の科学者会議で、筆者はたまたま「成長の限界」の著者デニス・メドウに会う機会を得た。彼の限界論の後に起きたイノベーションで、世界はローマクラブの提唱を反故にした。農業もエネルギーもメドウの予測を打ち砕く発展を遂げたからだ。メドウは「それでも私は今も私の考えが正しいと思う」と言った。筆者は、昔読んで茶色くなった彼の著書にサインをしてもらったが、彼の顔色はなかった。

 ミル、メドウに続いて約50年ぶりに広井教授が定常型社会を提言する。マクロ的な話であるから、ある日突然定常型社会になるのではなく、これからもいくつかのイノベーションを経験しつつ、しかし、定常状態になっていくと考えるべきだろう。その定常型社会をポスト資本主義社会と呼べば、既に五感をもって髣髴と感じられる。我が国は失われた30年(まさに平成が丸ごと)を経験し、特に国民一人当たりのGDPにおいて国際社会での地位を著しく下げた。20世紀から21世紀にかけて奇跡と言われたアジアの躍進も、我が国を追いかけるように少子高齢社会が始まり、もうそう長くは繁栄の中心ではいられない。

 時期を同じくして、小林剛也財務相地方課室長の財務省が取り組むイノベーションについてお話を聞いたが、海外に売れる日本酒の開発など現実的な事業に財政的に関わってくのがイノベーションというなら、それは賛同すべきと思う。しかし、時代を、世紀を超えてのダイナミックなイノベーションが定常型社会を打ち砕くだけのものになるかどうかはわからない。我々が経験した成長型の経済社会よ、もう一度はハードルが高い。
 
 ここは、厚労省出身者が誇る広井良典教授のさらなる研究成果に期待しよう。
 
 
 

[2019/04/12]
深層海洋への誘い



 過日の会議で、海洋物理学者の日比谷紀之東大大学院教授のレクを聴いた。それは息を飲み込むほどのファンタジーな内容であった。

 我々が親しんでいる親潮・黒潮などの表層海流の下に、深海を循環する海流があり、月の潮汐によって引き起こされている。その深層海流は、北大西洋からアフリカの南、南極大陸の北を通り、太平洋に出て、回転し、ユーラシア大陸の南を通って、再びアフリカの脇を通って北大西洋に帰る。この行程は1500年かかる。現在太平洋に戻ってきた海流は、前回は日本に仏教が伝来した6世紀ころのものだと言える。

 太平洋で回転するときに寒流から暖流に変わり、過去12万年の気温変化は深層海流の影響であるとの研究結果が出ている。現在気候変動は主に二酸化炭素による温暖ガスで説明されているが、実は長期的に考察すると、深層海流が原因ともなる。深層海流が停止したら、北大西洋の気温は5度以上低下する。つまり、現在の気候変動の科学は100年タームで議論され、1500年タームの話ではない。
 
 地球物理学は46億年の科学であるのに比べれば、1500年は一瞬だが、自然科学の壮大さの前に、10年単位で経済社会を論じる社会科学の理論は、真理探究の学問とは言い難いではないか。

 日比谷先生は、大気で起こる乱気流と同じ深海の乱流の観測を続けている。月の潮汐が駆動する深海の流れに改定の凸凹が乱流を起こす。乱流観測機は一基5千万円で日本では生産されていない。当然のことながら予算には苦労する。

 はやぶさ2の活躍が目覚ましい現在、宇宙の解明や太陽系の成り立ちに日本が直接挑んでいるのは喜ばしい。ならば、深海の物理が地球の未来を示唆する存在であることにも同様に金をかける必要がある。超高齢社会で低速化している日本経済社会では、大きな夢を抱いてはいけないのか。否、学問、イノベーションこそがブレークスルーを見出すであろう。
 
 月の潮汐と関係して、深層海流以外にも、ウナギの養殖への影響を指摘した研究がある。人間のお産も月の重力と関係していると言い伝えられてきたが、今のところ、有意味な研究成果は得られていない。月は太陽と違った形で生命や自然現象に影響していることを改めてファンタジーに感じた。
 

[2019/04/04]
移民法は人口問題を解決するか



 昨年末出入国管理及び難民認定法の改正により、新たに在留資格「特定技能」が設けられ、これを施行するため、4月1日に法務省の外局である出入国在留管理庁がスタートした。出入国在留管理庁在留支援課長に厚労省からの出向で赴任した平嶋氏の話を聞く機会を早速に得た。

 今回の法改正は、労働力不足を補うため、外国人に新たな資格を設けるのであって、恒久的な移民法ではないと安倍首相は何度も繰り返していたが、果たしてそうなるのだろうか。

 失踪問題で社会を騒がせてきた、建設現場や農業に携わる従来の技能実習生は、試験免除で特定技能のカテゴリー1の資格が得られ、職種の範囲は狭いがより熟練した場合には、家族帯同も許されるカテゴリー2に進むことができる。
 
 これまでいわば政府開発援助の発想により、日本の技能を学ばせるという考え方で行われてきた技能実習生は、労働のために入国する地位を与えられることになる。もしかしたら、低賃金や過酷な労働から労働法が守ってくれることが期待できるかもしれない。しかし、それは、上記管理庁がどれだけ関与できるかによる。従来は内外の民間斡旋業者に任せっきりだった。

 筆者は、この移民法(改正という形で行われ、重要な法律なのに呼び名が決まっていないから、あえて、こう呼ぶ)は、別の観点から、20年以上にわたる少子化政策の失敗によるものとみている。もう人口が増える兆しは見られない、だから、アメリカやドイツのように、労働力を外から調達する手段を合法化したのだ。

 しかし、技能実修生は技能と日本語の試験を免除されることから、実態は初めから単純労働を想定していることは明らかだ。母国より賃金の高い日本で、稼いで帰ることが目されている。だが、母国の賃金が上がってきた中国やブラジルの入国は減ってきている。今では、ベトナムやネパールなどが多いが、いずれ母国と日本の賃金格差が縮まれば、「稼いで帰る」メリットは低下する。
 
 現に安倍総理は「5年間に34万5千人の入国を予定しているが、人材が不要になったらやめる」とまで発言している。なるほど、あからさまに日本の社会のための都合で作られた法律である。しかし、そこは、人間は生身、どんな事態が待っているかわからない。特定技能カテゴリー2に上がるのは極めて難しいが、もし、日本にとどまりたいと思えば、あらゆる手段を使うであろう。
 
 筆者がアメリカに滞在した1970年代は、多くの偽装結婚があり、アメリカのグリーンカードを手にしようとした移民が後を絶たなかった。いくらトランプ大統領が国境に壁を作っても、人間の知恵は壁を超える。しかし、忘れてはならない、アメリカもそしてドイツも時々お荷物になる移民によってこそ発展してきたのだ。日本もいよいよその必要性ができてきたのではないか。
 
 ならば、入国及び在留条件を緩和してはどうか。少子化政策の失敗を埋めるのであれば、定住定着のために施策を講じたほうが良いのではないか。もちろん、既に地域住民と外国人は多くの軋轢を生んでいる。また、ブラジル人コミューニティーなど日本社会に溶け込まない状況が生み出されている。

 しかし、保育所改革など実際には人口増加につながらない少子化政策を飽きもせずやってきた政府がこれまでタブーだった移民政策に舵を切ったならば、外国人定住化政策とセットで行わねばならないのではないか。人権という観点以上に必要性という観点から、移民法の発展を願いたい。

 



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