元衆議院議員(茨城県第6区)[無所属]大泉ひろ子オフィシャルサイト -大泉ひろこの徒然草(つれづれぐさ)-
大泉ひろ子のプロフィール 日々雑感バックナンバー 後援会・党員・サポーター募集
2012年総選挙の総括
1. 累々の屍
2. 小泉改革、政権交代、そして、二大政党制の死
3. 死因は分裂病
4. マニフェスト選挙の死
5. 消費税、TPP、原発の真相
6. 安倍政権を許すのか
7. 国会議員の条件
8. 民主党に残された道
9. 一番の課題は少子高齢社会
10. 私がやろうとしたこと 科学殖産興業
11. 私がやろうとしたこと 人口政策

第10章 私がやろうとしたこと 科学殖産興業

 明治の日本は凄かった。富国強兵に殖産興業。軍国づくりと産業づくりに猛烈な勢いで邁進した。維新クーデターに至る道筋では、尊皇攘夷を掲げていたにも関わらず、攘夷どころか、お雇い外国人をどんどん受け入れて、技術や制度を採り入れることに腐心した。
 ドイツ医学やフランス民法、時代は下るがドイツ流の健康保険法など、日本は欧州を手本にした。福沢諭吉の脱亜欧入が実行された。太平洋戦争後になってアメリカ流デモクラシーと英米手続法が日本を席巻したように思えるが、核となる考え方は明治以来の欧州が手本であることに変わりはない。
 八幡製鉄のように、官から民に払い下げられた産業を始めとして、日本はすさまじい勢いで産業革命を遂げた。太平洋戦争後、日本が廃墟の中から立ち直れたのは、すでに技術や人材や設備などが存在していたからである。戦後は、駐留軍に見たアメリカの豊かさと技術に追いつき追い越せが動機となって、実際に80年代には追い越したと思われるときも来た。
 今はどうなのか。アメリカはもう物を作らない国だ。アップルコンピューターは、ソフトで勝負しているのであってハードは自前ではない。ICTもバイオテクノロジーも金融支配も、物つくりをやめたアメリカがトップに立った。アメリカは、今度はシェールガスの生産でエネルギー革命を起こしている。常に新たな産業を興すのがアメリカなのだ。
 日本は、これまで首位に立っていたものの多くをアジアの国に奪われている。半導体も家電製品も韓国にかなわない。原子力技術も福島の事故以来頓挫している。残っているのは車だ。新幹線の技術も世界一だ。車も新幹線も中国のような大きな市場をとらえなければならないが、小泉政権時代の日中関係の悪化によって、ドイツの後塵を拝するようになっている。今度は野田政権とそれに続く安倍政権がもたらす日中関係の再度の悪化が懸念され、市場を失う可能性が大きい。
 実は、技術からいえば、日本が世界一なのはたくさんある。ロボット、ナノテクノロジーがその例である。あるいは、宇宙太陽光発電、深海エネルギー開発なども、初期投資ができれば日本の新たな強みとなるはずである。問題は、日本が決断できないところにある。初期投資が1兆円でも、将来の日本の主たる産業となっていくのであれば、機を投ずるべきである。しかし、日本はできない。政治家の頭が悪いか、先陣を切る国民性がないかのどちらかである。
 明治は欧州にキャッチアップ、戦後はアメリカにキャッチアップが目標だった。日本は先陣ではなく、キャッチアップならば得意中の得意だ。しかし、中国・韓国をはじめアジアの国々が日本にキャッチアップしているのだから、今度はアメリカのように、新しいことに先陣を切らねば、比較優位の産業を育成することができない。
 科学技術でトップの種をたくさん持っている日本は、今こそ先陣乗りで科学産業を起こさねばならぬ。初期投資の大きいものばかりだから、政府が投資すべきだ。平成の殖産興業、そうだ、科学殖産興業をすべきなのだ。宇宙太陽光発電も、深海エネルギーも踏み出すべきだ。
 ヒッグス粒子の存在が確実視されて、素粒子研究が全世界的にさらに進もうというときに、素粒子の研究に不可欠の国際リニアコライダー(加速器)を日本が手を上げて誘致すべきなのだ。30キロメートルもある国際リニアコライダー建設の立地条件に適合した場所は、日本では2箇所考えられるが、その1箇所である岩手県を選び、東日本大震災からの復興を賭けて大プロジェクトにすべきだ。
 日本は湯川秀樹博士に始まり、朝永振一郎博士、小柴昌俊博士と、この分野でのノーベル賞受賞者が続いている。素粒子論はお家芸ではないか。国際リニアコライダーに1兆円の初期投資が必要ということだが、ここに、世界中の学者が集まり、新たな価値を創造していくことを考えれば、ぜひ進めるべきである。経済効果は4兆円という試算もある。
 日本が世界のアカデミズムの中心になることをめざせば、その中から新たな産業の種が生まれてくる。従来、日本は世界のアカデミズムの中心になった試しがない。東大が秋入学に移行したからと言って、すぐさま世界の優秀な学者や学生が集まるわけではない。
 その東大は、世界ランクではせいぜい15−30位くらいだ。私は、米ミシガン大学大学院とオーストラリア国立大学大学院の2つで修士号を取得したが、これらと東大とは世界ランクはほぼ同じだ。日本のフラッグキャリア大学が世界のランクの一桁に入らねば、世界第3位の経済大国が泣く。もっとも、世界の大学ランキングはイギリスで行われているので、アングロサクソン系の大学が贔屓目に位置づけられているのは否めないが。ならば、日本のアカデミズムを世界の場で挑戦させ、島国日本を変えていくべきだ。国際リニアコライダーの誘致は願ってもないチャンスであろう。
 私は、民主党政権が誇れるものとして、科学、医療、子供、地方の4つの政策はあると思う。財政難の中で科学予算を減らさないできたのは、誰よりも文科省が知っているはずだ。医療崩壊から医療機関の経営改善を果たし、子供に着目した政策を進め、一括交付金で地方行政を向上させた(安倍政権はこれを止めるそうだが)。この4分野は評価されてよいと思う。
 もうひとつ、民主党政権が策定した成長戦略の中での国際戦略総合特区は優れものだ。全国7か所に新たな産業を興し、政府投資と規制緩和を集中させて、日本経済の牽引を図ろうとするものだ。たとえば、名古屋は国産飛行機産業、関西はiPSを使ったライフサイエンス産業、北九州は都市鉱山のリサイクル産業、北海道は上質農産品をアジア市場に輸出する産業と、いずれも日本の技術で世界をリードできる新産業である。
 その中でも、つくば国際戦略総合特区は、1963年より研究学園都市として国立研究所の半数を集め、科学技術の成果を出してきたつくばがその成果を科学産業として作り上げる役割を持つ。先行する4分野は、生活支援ロボット、藻エネルギー、ナノテクノロジー、BNCTという新たな癌の放射線治療である。すでに実用段階にまで漕ぎ着けた科学技術であり、従来「研究のための研究」「国立研究所の横のつながりがない」等の批判を一気に解消するプロジェクトでもある。
 私は、2009年の当選直後から、つくばで生み出される研究成果を日本経済の牽引力にしようと狙いを定め、研究所、大学、行政の有志からなる科学グループを結成し、特区をはじめとする政策をバックアップしてきた。フィンランドのオウル市が小さな大学街からクラスターづくりをし、世界のノキア(携帯電話)を生み出したと同じことが日本にできないわけはない。
 つくばでは、環境やエネルギーを掲げて超組織で活躍する3Eフォーラム、ナノテクノロジーを経済界とも連携して進めるTIA(つくばイン・アリーナ)などの大学、研究所、行政、民間などが協力する体制ができ始めていた。国際戦略総合特区はこれらの集大成になろう。しかも、特区では、外国人研究者の最も多いつくばの国際都市化も図られる。
 人口21万のつくば市に、研究者が2万人、博士号取得者が8千人いる。つくばエクスプレスのつくば駅を降り立てば、東京のオフィス街と変わらぬ洗練さが感じられる。そのスマートさをさらに、ここならば全ての生活事項を英語で済ますことができるという地域にしたいのである。日本もそんな所があって然るべきだが、第一番目に「英語圏」市になれるのは、つくば以外にあるまい。
 科学産業化を目指せば、研究所と大学中心の街から、民間企業と外国人がますます活発に往来する街に変わっていくはずである。それがノキアを生み出したオウル市である。奇しくも、オウルは英語でフクロウのこと、つくばを象徴する市の鳥はフクロウなのである。これは偶然だが、近い将来につくばブランドが世界を跋扈する時代が来る。日本経済への貢献は凄まじいものになるはずである。
 私は、このことを先の総選挙で訴えたが、多くの人に理解していただくまでには至らなかった。前回選挙で「後期高齢者医療制度の廃止」の訴えはよく届いたが、科学産業の推進派すぐさま目に見える政策ではなかったので、分かりにくかったと反省している。その上、「民主党が言うことは信頼できない」が前提にあったからなおさらであろう。現に、先の公約である後期高齢者医療制度の廃止もできないままだ。有権者の皆様に申し訳ない。
 しかし、つくば特区は、間違いなく日本の夢を実現していくはずである。にも拘らず、「民主党主導の政策はやめる」というのが現政権の方針だ。現に、高校授業料の無償化は所得制限を設け、農家の戸別補償制度は名称を変え、再来年度には見直し、都道府県一括交付金の制度も廃止、事業仕分け廃止と次々に民主党の政策は潰されていく。
 国際戦略総合特区も、つくばで9億余の予算がついたくらいで、ほかの6特区は予算がついていない。折角の国策プロジェクトを政争の道具にしてしまうのは残念だ。民主党は反省するところは反省するが、国益になる政策については主張していかねばならない。
 安倍政権は、マネタリストの持論を採用してマーケットとコミュニケーションができ、株高・円高をもたらしている。高らかに政治主導をアピールしている。これは、民主党政権が当初の子ども手当や高校授業料無償化の創設の勢いを程なくして失い、次第に官僚に主導権を奪われていったのを学習したと思われる。政策を矢継ぎ早に打ち、マスコミを味方につけ、政策のマイナス面を書かせない。誠に、民主党は学ぶべきである。小泉政権の後の3代にわたる「不作」を繰り返すまいという姿勢が強く反映している。
 そして、今なら、民主党を諸悪の根源にして誰も否定はしない。民主党の政策つぶしは正義の仕事だ。しかし、アベノミクスの成長戦略は6月にならないとできない。ならば、民主党主導の国際戦略総合特区を粗略に扱わないことだ。そう叫んでも絶望と思いながらなお叫ぶ。
 民間の投資や海外からの投資でも特区を進めることはできるが、将来日本の基幹産業になるものだとすれば、情報の流出や国益の損失が脅かされないとも限らない。また、事業を素早く展開していくには、規制緩和が必要だが、これだけは政府の姿勢によるので、民間の肩代わりができない。
 私は、民間で特区を完成させる方法を模索しているところである。中国天津のサイエンスパークに行ったときは、中国の高官はなべて「中国を見学しなくていいですよ。日本の科学技術はずっと優れている。だから、技術と人材を下さい」と情熱的に語った。つくば特区の成果を中国でクラスター化するのは簡単だが、それでは、日本の優位性と雇用が失われてしまう。今、しきりに知恵を巡らせているところだ。





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