元衆議院議員(茨城県第6区)[無所属]大泉ひろ子オフィシャルサイト -大泉ひろこの徒然草(つれづれぐさ)-
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2012年総選挙の総括
1. 累々の屍
2. 小泉改革、政権交代、そして、二大政党制の死
3. 死因は分裂病
4. マニフェスト選挙の死
5. 消費税、TPP、原発の真相
6. 安倍政権を許すのか
7. 国会議員の条件
8. 民主党に残された道
9. 一番の課題は少子高齢社会
10. 私がやろうとしたこと 科学殖産興業
11. 私がやろうとしたこと 人口政策

第8章 民主党に残された道

 民主党衆議院議員は前回308人の当選から今回57人にまで落ちた。ここで参議院選挙に勝たないと真に中小政党となる。今回の衆議院選挙では非自民の票が多様の政党にばらばらに入ったことが自民の圧勝をもたらした。ならば、野党が一つにまとまって共闘することが必要だが、どうも民主党は他党から嫌われてしまっている。
 それもそのはず、既述したように、民主党の最後は、自民党の尻尾となり、今や自民党の盲腸と化したからである。こんな自民党まがいの政党とほかの野党が組むことはできない。
 ここに、民主党に残された道が隠されている。先ずは「脱」自民をやることだ。綱領を作るのも一つの手だが、総選挙直前の綱領検討会では、驚いたことに「日本は、天皇制の下で一貫した国・・・」という前文で始まる綱領案を知った(正確な文章は記憶があいまいだが)。党の綱領にあえて天皇を入れなければならぬ奇妙さに、改めて民主党の立ち位置の不明さを悟った。
 綱領に天皇の件を入れることを主張したのは中野寛成だというから、彼は今回引退したので、幸いにも現在の案からは天皇の件ははずれた。それよりも、リベラル中道なのかリベラル保守なのか、まずは立ち位置を決めることだ。維新が極右、安倍自民が最右翼となれば、それより軸は中心か少し左にならねばなるまい。社民や共産ほど左にいくと政権は難しくなる。
 そして、マニフェストで採り入れた「国民生活第一」、つまり、国民の需要に基づいた政治を標榜すべきである。今回のアベノミクスで表れているように、自民は基本が供給者ベースの政治だからである。インフレターゲットで日銀が紙幣を刷り、その金を借りて事業をする人のための政治、公共事業5兆円を請け負う人のための政治、それが安倍自民党の従来手法を駆使した政治である。
 これに対立する「国民の生活第一」の概念を作ったのは小沢一郎であり、彼はこの点から見れば天才だ。今や、小沢つぶしなどやっている暇はない、民主党はこれを素直に綱領に掲げ、文句は「国民の需要に基づいた政治」にすればいい。もしくは、ディマンドサイド・エコノミクスとでも言えばよい。
 この軸さえ守れば、あとは現実的な政治をしてもいい。気が早いかもしれないが、生活党と社民党に一緒にやらないかと声をかけてはどうか。ただし、社民党は「現実的政治」の部分も肯定し、政権をとるという気概を持たねば無理だが。
 自民に対抗するには、ヨーロッパ流の社民主義は必要だ。アメリカのオバマでさえ、大統領二期目は、中産階級に照準を当てている。照準をぼかせば八方美人と思ったら大間違いで、政治の世界では八方不美人になってしまう。8割が中産階級意識を持っていた昭和の全盛期のように、8割の人が中産階級になれるように照準を当てるべきだ。
 今、その8割は、100円ショップで物を買い、就職できない息子に小遣いを渡し、外食もおしゃれ着も買い控えている階層になっていることを念頭に置かねばならない。消費税の引き上げが生活に及ぶ階層が拡大していることを無視した政策をとったために敗れたことも再認識する必要がある。
 中産階級を作り出すのは、経済が回復して雇用が拡大し、その過程で自然に実現することだという議論が多いだろう。確かに、社会保障だけで、あるいはばらまき政策や景気浮揚政策だけで中産階級の回復はない。どうすればよいのか。公共事業に頼って、再び借金財政だけが残る自民政治の手法を真っ向から対決するつもりなら、新たな産業構造を作らねばならない。
 それは、科学技術を駆使した新たな産業である。民主党政治では、科研費だけは守ってきた。国際戦略総合特区を7か所指定し、新たな産業へと歩み始めた。しかし、民主党主導のものがこれから発展強化されるかどうか疑わしい。
実際に今の時点では、特区の予算はわずかしか計上されていない。
 安倍政権では、いち早くノーベル賞受賞者山中伸弥教授のiPS細胞研究に補正予算を計上したが、この技術は山中先生自身も言っているように、実用化に最低10年はかかる。また、細胞のがん化などの困難な問題を抱えているため、実用化の道は険しい。iPS細胞の研究ひとつにだけ期待するのではなく、すでに実用化段階までこぎつけたナノテクやロボット、バイオエネルギーなどを産業化することを急がねばならない。
 日本は政府の決定の遅さで世界的に有名だ。経済成長しているアジアの国々では、「日本の新たな科学技術をください、産業化は私たちがします」と手ぐすねを引いて待っている状態だ。もはや逡巡しているときではない。新たな産業は、工場を日本で作って日本人の雇用を増やさねばならない。それには、「小さな政府」を今更標榜して、民間が動き出すまで黙っていては遅いのである。
 明治に殖産興業をやったように、平成の殖産興業をやらねばならない。その原資を考えるとき、再び財政投融資の制度を復活させるべきと思う。民主党の財金の会議でそう発言した時、良い反応があって、後日事務局の財務省が説明に来た。これから日銀にどんどん紙幣を刷らせるつもりなら、国債は日銀任せにし、郵貯や年金を原資に財政投融資の制度を復活し、産業化を政策的に進めていくべきではないか。
 その仕事を民主党が背負っていくならば、元祖構造改革の民主党としては面目躍如である。こういう前向きの発信をしないで、事業仕分けと消費税だけを発信した民主党は、いかにも後ろ向きだった。安倍自民は、危ない橋とは知りつつも、大胆なインフレターゲットを発信し、マーケットが反応して株価に響いたではないか。同じ大風呂敷というやり方だが、自民の方が民主よりも巧妙だ。
 もうひとつ、農業という産業をどうするかという難問がある。民主党は戸別補償を軸として、農家直接の所得補償制度を始めたが、これは法制化したのではなく予算措置だったために、すでに自民党は「見直す」と宣言している。自民党の長年の支援団体だったJAを通さずに、農家の直接補償をすることは、ディマンドサイド・エコノミクスの原則からくるものだ。むろん、自民党には受け入れられない。
 しかし、戸別補償は、大農家には大きな収入をもたらしたが、零細農家には、耕作放棄の条件などが厳しく、対象にならない場合が多い。直接の生産者に支払われるため、貸していた農地を取り戻すことも行われた。この新制度を喜んだ人もいれば、批判的な人もいるという事実から、その政策哲学を洗い直した方がいいと思う。転作を目的とするのか、大農家に土地を集約していくのかを明確にし、農家の生き残り政策ではなく、産業としての発展をもたらさねばならない。
 民主党が明らかに力を入れたのは、子供政策だった。しかし、子ども手当のような金銭給付では効果・効率ともに乏しい。金銭給付は公明党のお家芸であり、過去に幾度も批判されてきた。たとえ所得の再配分を狙ったとしても、政策の対象である子供が便益を受けるようにしなければ、「子供を増やす、将来の立派な労働力を育てる」という政策目的にはかなうまい。
 社会保障と税の一体改革法案の中で、廃案になった総合こども園も、幼保一体改革と待機児童ゼロという子供政策のほんの一部だけを取り上げた案であり、これでは子供政策にはならない。明確に人口を増やすという観点から、スウェーデンやフランスの子供政策をこぞって取り入れるようでなければなるまい。子供政策というと、就学前児童に偏りがちだが、むしろ、教育費、職業教育、産業・労働市場との連携などをしっかり制度化すべきである。
 以上述べたことをまとめ上げると、民主党が行くべき道として、まず、中産階級8割をつくることを目標とし、政策は、これまでも力を入れてきた3分野、科学、農業、子供で日本を持続できる国にしていく道筋をしっかり発信することである。エネルギー対策や外交は、民主党が前向きに発信してこなかったのだから、先ずは3分野での対立軸をつくることに力点をおくべきである。
 ただし、ここに大きな障害がある。それは、3年前に比べ4分の1規模になった民主党の中でまだ不協和音があることである。小沢派は出て行ったが、実務派と松下政経塾派は相容れない。野田前総理のあのヒステリックな国会解散宣言を一部の野田派は知らされていたと藤村前官房長官は後日語っている。党の常任幹事会や素行会など別グループは、何も知らずに「解散反対」を総理に申し入れていた。
 野田さんのやったことは、他人との約束(近いうちに解散)を優先し、家族を皆殺しにしたことだ。その野田グループが反省の色もなく残っているのは実務家グループには許せぬことであろう。「参議院逆転勝利」と言って気勢を上げているそうだが、寝ぼけているのではないかと思われる。新潮45の記事に、「キャリアが十分でないまま総理になり民主党議員をここまで減らした人に将来はない」と断言されたのを知っているのか。
 代表選に野田さんの側近の蓮舫が出馬しようとしたことひとつとっても反省がない証拠だ。代表が海江田氏になったことは、野田・松下政経塾派でないだけ救われるが、いずれ小所帯の再分裂がおきるであろう。もし、参議院選挙に負ければ分裂は必至であり、旧社会党の運命と同じになるかもしれない。
 先日の新聞記事に、民主党長島昭久氏(東京)とともに綱領づくりをし、今回落選した吉良州司氏(大分県)が、自民との対立軸を作るにあたって左寄りになるのを恐れ、「次は民主党から出ないかもしれない」と発言をしていることからも伺える。吉良氏は右系で野田総理を擁護した人であるが、党内の右からも、左からも互いの妥協はできないというところまで来ている。
 離婚だって、経済事情がいいときは我慢するが、貧乏になると踏み切ってしまうものだ。貧相になった民主党にポジティブ・イメージを描けなくなった元民主党議員が多くいることは間違いない。なら、どうすればいいのか。
 維新・自民による右傾化に対抗する勢力として、新しい革袋が必要なのかもしれない。実務家が集まっての政策集団を作り、政党化していく方がわかりやすいだろう。しかし、それとても時間のかかる話であり、下手すれば、憲法9条が改正され、国防軍ができ、徴兵制が敷かれ、教育勅語が復活し、「格好いい軍国主義日本」が登場した後のことになるかもしれない。そのあと、中国や韓国との戦争に負けるまでは、新たな政党は国民の支持を受けないのかもしれない。
 否、その前に、アベノミクスが早々に失敗して、銀行は金でいっぱいになったが借り手がなく、新産業は起こらないのに公共事業の大盤振る舞いで起きたインフレが人々を苦しめ、いよいよ国の借金は外国に頼るようになったとしたら・・・万が一の場合は、人々は維新党に次を託すのかもしれない。維新党もまた、外交では、安倍と同じことをやるであろう。内政では、原発やるのやらないので決められない政治が続く。維新党の主導権を石原慎太郎が握り続けるのか、橋本徹に代わるのかによって全く異なる政党になろう。
 どの場合でも、民主党がたちまちにして息を吹き返す余地はない。有権者は、「お前だけは許さない」と意思表示をしたのだから。看板を書き換え、これまで主導権を握っていた連中ではない勢力が、つまり、松下政経塾ではない実務派が、時間はかかるが回復の道を探るしかあるまい。その間、日本の国際的地位はどんどん下がっていくことになろう。
 今回の総選挙は民主党が負けただけで終わったのではない。一旦は死にかけた既存の保守の半永久的な延命、姑息なしがらみの復活、リベラルへの侮蔑、1・5大政党時代への回帰をもたらし、まさに時計の針を元に戻した。その大きな責任を誰が負うべきかは言わずもがなである。





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