元衆議院議員(茨城県第6区)[無所属]大泉ひろ子オフィシャルサイト
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2012年総選挙の総括
1. 累々の屍
2. 小泉改革、政権交代、そして、二大政党制の死
3. 死因は分裂病
4. マニフェスト選挙の死
5. 消費税、TPP、原発の真相
6. 安倍政権を許すのか
7. 国会議員の条件
8. 民主党に残された道
9. 一番の課題は少子高齢社会
10. 私がやろうとしたこと 科学殖産興業
11. 私がやろうとしたこと 人口政策

第5章 消費税、TPP、原発の真相

 消費税については縷々書いてきた。民主党内の議論では、野田総理の真意が不明のまま議論は打ち切られ、党の分裂を招いて、自民、公明の協力のもとに法案が成立した。改めて言うまでもなく、消費税は総選挙における民主党敗退の主たる原因になった。党内議論は、消費税に限ったことではなく、その他の課題についても同じような方法で、同じような対立を生むこととなった。
 まずはTPPについてである。2010年秋、オバマ大統領は日本で開かれるAPECの会議前に、菅総理に対しTPP(環太平洋パートナーシップ)の参加を求めたと言われる。この事実については、菅総理の成長戦略を考える上での独断であったという見方もある。
 TPPの参加とは、アメリカを含む環太平洋9か国の自由貿易協定への参加である。もともとは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド4か国で始まったが、アメリカ、マレーシア、ベトナム、ペルーが加わった。最近では(2013年現在)、カナダ、メキシコが交渉に入った。厳しいルールの自由貿易協定で、例外なき関税撤廃を掲げていた。
 菅総理は2010年10月1日、衆議院本会議において所信表明演説をし、「TPP参加の検討」を表明。並み居る衆議院議員の中でTPPと聞いて咄嗟に理解した者がどれだけいただろうか。
 冗談ではなくトイレットペーパーのリサイクルだと思った人も多い。内容がしだいにわかってくるにつれ、民主党議員は青ざめていった。なぜなら、自由貿易協定は、民主党の方針では、ASEANプラス3(日中韓)あるいはASEANプラス6(既述の3国にインド、オーストラリア、ニュージーランドを加える)との原則二国間協定を進めながら、最後は、APEC加盟国全部に拡大してFTAAPという大きな枠組みの自由貿易協定にしていくことを目指していたからである。ちなみに、アメリカは、APECの加盟国である。
 つまり、日本あるいはアジア主導で進める予定であった自由貿易協定を急にアメリカ主導に変える、ということだ。そんな大きな政策変換ならば、与党議論を経てから言及すべきではないか。あたかもTPPに参加するのが当たり前のような所信表明であった。
 考えてみれば、これも消費税と根っこは同じである。小沢―鳩山路線では、東アジア共同体の構築という発想もあって、アジア中心に物事を決めていこうとしていたのだが、またぞろ小沢路線継承の拒否だったのだ。その上に、鳩山の普天間移設発言でアメリカの不評を買った引け目から、オバマの申し出を押し頂いてしまったのだ。
 民主党マニフェストでは日米を基軸にすることは原則としつつも、アジアの経済社会の発展に日本は積極的に関わっていくことを記している。まして、初代総理は、東アジア共同体構想をぶち上げた。そこへTPP参加では、朝令暮改もいいところではないか。
 一説によれば、小沢−鳩山のアジア寄り外交路線に危機感を抱いたアメリカが小沢と鳩山のカネの問題を必要以上に喧伝する方法をとったとも言う。アメリカ陰謀説を鵜呑みにするわけではないが、確かに、鳩山の理想主義は時期尚早のきらいもあり、どこかで潰されるようにはなっていた。それはあたかも戦前、宮崎滔天、北一輝、大川周明などの「右翼」が描いた中国革命成就の夢のようであり、青年将校の突撃とともに消されることになっていたのかもしれない。
 アジア主義を唱えるのは、戦前は右翼、戦後は左翼であるというのは面白い。大東亜共栄圏、八紘一宇、岡倉天心の「アジアはひとつ」という哲学は、欧米の模倣によって近代化を遂げた日本の劣等感の裏返しから発しているようにも思われる。鳩山さんの東アジア共同体はどこまで精緻なものかは知らないが、哲学よりも先に、日本の経済発展には人口の多いアジアの市場を使っていかねばならないという功利的攻略的発想がある。そして、それは日本とって必須とも言うべきもので、避けて通れない。
 日本は、日支事変から太平洋戦争に至るまで、アジアを侵略して資源を手に入れようとした。そのときの大義名分としてアジアを欧米支配から解放することを掲げた。いち早く近代化を遂げた日本がアジアの盟主として君臨すればアジア自体の繁栄が望めるとの思想を普及させた。
 アジアの国々も一時期は日本の進出に期待したところもあった。インドの独立運動家が日本に亡命した事実もそのひとつの証左である。しかし、マレーシアでもフィリピンでもアングロサクソンに代わった日本は、結局黄色い顔をした植民地支配者でしかなかったことを現地の人々に悟られるのである。アジアには、仏教文化や華僑がもたらした儒教文化など共通の文化もあるが、西洋におけるカント、マルクス、マックス・ウェーバーといった近代の思想的リーダーがアジア全域に影響を与える形では登場しなかった。
 ガンジーや毛沢東は、自国の独立に重きを置いた。長い間、アジアはアングロサクソンの植民地支配から抜け出すことが第一の課題であり、アジア全域の共同繁栄というのはあくまで頭の中の哲学でしかなかった。日本は、アジアの国々の独立を助ける名目で大東亜共栄圏を描いたが、その実、後発の植民地支配者になりたかっただけだ。
 近年では、マレーシアのマハティール首相がルックイースト政策で日本を目標にした時期もあったが、20年余に及ぶ日本のデフレ不況の状況を見て「既に日本に学ぶことはない」と結論付けたと伝えられる。その一方で、アジアの大国である中国、インド、日本を外に置くASEAN(東南アジア連合)は、今後のアジアの自由貿易や共通の問題への取り組みに中心的役割を果たしている。
 つまり、東アジア共同体構想は、EU(ヨーロッパ連合)とは発達段階がはるかに遅れていて、スローガンにはなっても具体的には一挙に進展する要素は見られない。ただし、世界の人口の半分を占めるアジアが世界の経済の牽引力となるのは事実であり、自由貿易協定によって、人、物、金の流れを円滑にすることが、技術や資源を効率的に使い、世界経済に寄与すると考えられる。その意味で、例えば通貨統合あるいは通貨バスケットのような方式までは論ずるに値する。
 また、1997年のアジア経済危機に学び、ヘッジファンドやIMFに外から支配されるアジアではなく、当時宮沢大蔵大臣がアジアIMFを作ろうとしたのは極めて妥当な考えであると思われる。これは宮沢イニシアチブと呼ばれるが、日本がアジアで主導権を握ることを潔しとしないアメリカと中国に阻まれ、実現しなかった。
 前置きが長くなったが、自由貿易協定を推し進めるに当たっては、こうした流れの中から、アジアの国々とそれぞれ交渉し、日本の役割を明確に持つことが今後の日本の発展につながる。ところが、その動きが始まろうとした矢先に、アメリカ主導のTPPに乗り換えようとしているのである。
 このことは、宮沢イニシアチブがアメリカに潰されたことを即座に思い起こすではないか。アメリカにとっては、世界最大の市場アジアの貿易ルールづくりに自国が関与しないわけにはいかない。否、アメリカがつくったルールにアジアを載せなければならない。アメリカはいずれ中国によってアジアへの進出を阻害されることを十分に予想している。だから、その前に、まだ世界3位の経済規模を持つ日本を招じ入れて環太平洋で貿易ルールをつくり、中国をはじめとするアジアの国々を自分の土俵に引き入れたいのである。
 オバマ大統領の意図はそこにあった。経団連をはじめ経済界ではTPP参加を政府に促しているが、真意を読み取ってのことだろうか。誰も自由貿易という方向性を否定はしない。ルール作りをアジア中心でいくかアメリカ中心でいくかの違いである。日本の貿易額は、対アメリカよりも対中国の方がはるかに大きくなり、国益はアジアの経済を日本に取り込むことにある。日本がアメリカから受けてきた年次報告書方式の市場開放の強要はもう対応する必要はないではないか。
 そもそもは、WTOが機能しないから、個別の自由貿易協定がはやるようになった。世界は、統一ルールではなく、まるで戦前のように、地域経済ブロック化に勤しんでいる。日本は環太平洋ブロックに入るのかASEANプラス6ブロックに入るのか選択を迫られているということだ。
 ルール作りと言えば、もちろん、契約社会を築き上げた欧米が優っていると思う。アジアはネポティズム(血縁主義)やら収賄やらがルールを蹂躙する要素の多い地域で、日本がリードしてアジアの自由貿易協定が作れるかどうかは不明だ。しかし、今、アジアには、全域で極めて早いスピードで向かう少子高齢化という共通課題があり、この課題に人、物、金の流れを結集させて経済社会の発展をもたらさねばならない。
 ゆるやかに高齢社会に到達した欧米と違い、人口構造の変化のスピードが異常なほど早いアジアでは、医療や介護分野での貿易が重要になってくるだろう。アジアでは、日本以外に、韓国、台湾、シンガポール、香港、中国の上海などで社会保障制度が存在するが、まだ萌芽的な内容である。日本のような社会保障の大きなシステム構築には時間がかかる。システム構築前に、特にアメリカのような民間主体の社会サービスが入り込むことは国の制度づくりの障害になると危惧される。
 かつてイギリスはインドに綿を作らせて本国で衣料品に加工し、付加価値をつけてインドに輸出した。インドは一次産品の生産国に止まり、工業化の道を阻まれた。これと似て、アメリカは、アジアの富裕の年寄りの介護天国を作り、その利益擁護のために国の社会保障づくりを阻むかもしれない。こういうのも植民地支配と変わらない。日本は、社会保険制度を持ちながら、非関税障壁と言われてアメリカから数々の民営化を要求されてきた。それと同じことがアジアの国々で起きるであろう。
 私は、哲学的にアジアをアメリカに優先させろというのではない。日本の国益にとって、はっきり言えば、どう貿易ルールを作ったら、世界最大の市場アジアとともに発展できるかを優先すべきと考えるだけである。アジアは経済社会的にも、近代政治という観点からも、欧米に後れをとっている。同じ土台でルールは作れない。アジアの中で唯一欧米と並ぶ発展を遂げた日本が関与して、乗り切る方法を考えるべきだ。
 既にハブ空港や貿易港のアジアにおける競争で敗れた日本は、新たな役割を見つけなければならない。対アジアならば、アジア諸国が一様に向かっている少子高齢化社会を前提としたサービス貿易で優位に立つことができよう。少子高齢化を問題にしていない対アメリカとは異なる役割をアジアで演ずることができる。
 さて、TPPの議論の中心は日本農業の壊滅である。コメなど農産物が輸入農産物に押されて、さらに食料自給率を低下させ、やがて農業廃業となると考えられている。農水省も危機感を露わにし、一次産業の撤退による国内総生産の喪失を試算している。他方で、経産省が自由貿易による比較優位産業の国内総生産押し上げ効果を試算し、両省で数字を競っている。今のところ、両省で出した数字には疑問符がつけられているが、農業の壊滅については相当な危機感が持たれている。
 TPP反対の烽火を真っ先に挙げたのはJAである。JAの反対集会には超党派の議員が参加した。農業県である茨城県出身の私を含む国会議員はみな参加した。また、JA以上に反対を唱えたのは、日本医師会である。以前から日本の堅固な社会保険制度に阻まれてアメリカの保険会社が市場参入できないことを幾度も日本に申し入れてきたが、TPPでその動きを本格化する可能性がある。アメリカは持論の混合診療解禁を強要するかもしれないし、病院の株式会社化も迫ってくるであろう。郵政もまた、簡保生命保険が標的になることから、TPPに反対である。
 野田政権の不可解なところは、マニフェストを支持した国民をないがしろにしただけではなく、政権交代の大きな原動力となった医師会や郵政政策研究会にも冷たく対応したことだ。「我々は利権政治を行っているのではない」と豪語するのはいいかもしれないが、ならば、支援を受けるな。政党が丸裸で選挙に勝つことはできない。少なくも、支援者の意見を顧みる必要があろう。郵政改革法を長らく放置したことだけでも郵政政策研究会を怒らしたが、TPPの対応もまた民主党への不満をますます募らせることになったのである。
 菅総理を引き継いだ野田総理は、当初からTPPに積極的だった。党に慮って、参加表明ではなく、事前情報収集と言いながら、総選挙が差し迫った11月には、「TPP参加を争点にする」とまで言い出した。鳩山氏を公認から降ろすのが主目的だったかもしれないが、およそ党内意見を無視したやり方に腹が立った。この時は、私もいよいよ無所属で出馬するかと思ったが、鳩山氏の自らの引退で話はうやむやになった。
 一説には、オバマ大統領から、「TPPを争点にするな、国民の反対が明らかになると困るから」と指示を受けたとも言われる。オバマ大統領はこの時既に民主党惨敗の予測情報を得ていたのであろう。惨敗する方の公約に使われたのではかなわないとの判断であろう。
 消費税とTPPへの姿勢は、野田総理の目指す政治とは自民の尻尾役だったことを明らかにした。野田氏は「本来なら自民党」から出馬したかったが、世襲に占領されてできなかっただけだということが明らかになった。地盤、看板、鞄を持たずに始めた政治は、松下政経塾という看板と船橋駅前常勤演説屋という地盤を築いて、「政治とは保守にかぎる」を貫いた。
 自民の尻尾役は、自民が総選挙に勝つと今度は自民の盲腸になった。尻尾を振って自民を応援し自民の積年の課題である消費税引き上げを成し遂げたが、今は無用の長物になった。かつての党首に申し訳ないが、この表現が一番あてはまると思う。売国奴ならぬ売「党」奴として、軍法会議にかけられるべきであろう。
 消費税もTPPもポストマニフェストの課題だ。マニフェストも実現させず何故余計なことに取り組まねばならなかったのか。ポストマニフェストで最も重要なのは、東日本大震災と原発への対応ではなかったのか。もし、マニフェストが遅々として捗らなくても、大震災と原発対応に不退転の決意で臨む、と野田総理が就任の挨拶で宣言したとしたら、国民はここまで怒らなかったであろう。
 さて、もう一つの課題である原発の対応。大飯の原発再稼働で、国民は荒れた。マスコミがあおった部分もあるが、国民の多くは、調査によれば脱原発かアンチ原発であった。野田総理はここでも自民の従来路線を踏襲しようとしていた。荒井聡率いる民主党の原発プロジェクトチームは野田総理との対決姿勢を強めた。
 選挙の争点として「一つくらい自民党との対立軸が必要」と思ったのだろうか、2030年代再稼働ゼロの方針が、いつもと同じく、突然出た。原発を再生可能エネルギーに切り替えていくのは新たな技術開発を猛烈な勢いで進めるために、大きなインセンティブとなろう。しかし、素人でも、再生可能エネルギー比率はどうするのか、使用済み核燃料を再使用しない場合の処理をどうするのか、戦力の国内需要をどう見積もっているのかなどの具体的な工程表を欠く方針に問いたい課題が多い。
  結局、原発プロジェクトチームを精力的に運営していた女性議員が、政府の方針に飽き足らず、離党して緑の風なる新たな政党を起こした。私自身は、政府が明確な工程表をもって臨むならば2030年代再稼働ゼロに与しようとは思っていたが、判断材料に乏しく確信は持てなかった。
 せっかくの方針も明快さを欠いたため、原発はそれほどの争点にはならなかった。それに、自民党でさえ「原発推進」の言は避け、どの党も温度差はあれ、脱原発の方向を出していた。維新党は、原発をやると言ったりやらないと言ったり右顧左眄したし、原発反対の旗手嘉田滋賀県知事は小沢さんに引っ掻き回されて本人が埋没する始末だった。
 結局、消費税、TPP、原発はマスコミが争点といったものの、今回の総選挙の明快な争点にはならなかった。なぜなら、争点は「民主党にやめてもらう」の一点に尽きていたからである。あとは、付属物だった。この選挙に臨んだ民主党員全員が笑えないピエロだったにすぎない。





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