日々雑感
[2024/11/27]
多党化時代の政治
2024年は選挙の年だった。都知事選、総選挙、兵庫県知事選は従来とは次元の異なる結果をもたらした。さらに、アメリカ大統領選挙もまた異彩を放つ「出来栄え」であり、日本にも選挙とは何か、民意とは何かの大きな影響を与えた。
では、何がそうさせたのか。人々は「長いものに巻かれろ」を辞めた。だから、選挙の様相が変わったのだ。「普通の人」は自民党に投票するはずだった。マスコミや定番のコメンテーターは「長いもの」の考え方を提供したが、人々は乗らなかった。
SNSやユーチューブは、マスコミに勝った。マスコミと定番コメンテーターが作り上げた敵の構図を唯々諾々と飲まなかった。既存のマスコミなどは、都知事選の石丸現象も、総選挙の多党化も、斉藤知事の圧勝も予測できなかった。さらに、アメリカ大統領選でも、民主党系のワシントンポストやニューヨークタイムズを鵜呑みにして事実と異なる「接戦」を報じ続けた。
総選挙の結果は多党化である。自民が負けたことは事実だが、立民が勝ったのではない。立民は、これまで小選挙区で負かされてきた相手が勝手に票を減らしたので議席を50も伸ばしたが、比例票は変わらない。つまり敵失で勝ったものの、立民支援者は一定のグループに限られている。
組織票がベースの公明と共産はそれぞれ110万、80万も票を減らした。組織の高齢化や組織離れに歯止めがかからない。代わって出てきたのが、自民党を代替する国民民主党と共産党を代替するれいわ新選組だ。結果は、国民がどの政党も圧倒的に支持せず、多党化し、政治のカオスを招いたということになる。
このことは、日本の政治状況が欧州に似てきたと言える。90年代ソ連の崩壊とともに欧州では社会民主主義系が台頭したが、日本では、細川連立政権が文字通りの短命で終わり、アングロサクソンを真似た小選挙区政権交代システムは、一度だけ成立した民主党政権の失政によって長続きはしなかった。その日本が、ドイツやイタリアのように、連立でしか内閣を作れない多党化に向かい、ようやく世界の潮流に追いついたとでも言うべきか。
手取りを増やすのフレーズで若者の票を獲得した国民民主党に自民は媚を売ればよい。同時に、石破首相は自民の中で政策実行が不可能ならば、野党に働きかければよい。選択制夫婦別姓も、相続税・金融所得の課税強化も、女系天皇も、野党が一丸となれば実現できる。それは皆、石破首相のやりたいことではなかったか。日米行政協定の改正はハードルが高いが、今できることは多い。
自民党内ですべて首相の意思を消してかかったが、石破首相はわずかに残った地方創生に逃げ込むのはやめるべきだ。この政策は過去も今も全く成功していない。野党に働きかけ、ダイナミックな政策を実現する首相にならなければ、長い間待った甲斐がないではないか。トランプにも既に蹴飛ばされ、外交の場のふるまいを揶揄される首相は昭和垢のついた優柔不断男になっている。森山幹事長に安楽死のクスリを飲まされて早期に退却するシナリオでよいのか。
総選挙は政治のカオスを招いた。しかし、多党化時代ならではできることもある。
[2024/10/28]
誰が保守を担うのか
総選挙の結果は大方の予想通りになった。与党過半数割れである。選挙終盤の裏金議員への二千万円支給が決定打となった。自民党の身内びいき、温情主義が仇になった。
特別国会での首班指名まで政党間の駆け引きが続く。維新、国民民主、共産は「野田」とは書くまい。政党の看板に傷がつく。維新、国民は「ゆるふん」の自民とは異なる保守を目指す政党だ。共産は、極左の立場から、右から左までゴタ混ぜの曖昧左党立民を嫌う。
石破がかろうじて首班に指名されたとしても、党内はもたない。裏金=安部派の復讐が待っている。では、今後、日本は誰が保守を担うのか。少なくとも、総選挙は、自民が「健全な保守」ではなかったことを明確にした。安部派=高市を除いたものの、右翼を整理しただけで、その残りも健全とは程遠い存在だった。日本の有権者は、きちんと審判したのだ。
安部元首相が亡くなって初めて、立民は「民主党政権という悪夢」の形容詞を外すことができた。二度と党勢拡大はなかったはずだが、大きな敵失が彼らを救った。しかし、右翼を切った自民を真似できず、左翼を切ることはできなかった。
野田は党内右派を代表して、穏健さを前面に出し、悪夢の看板を下ろしにかかった。その意味では、選挙戦は成功したと言ってもよい。しかし、問題はこれからだ。右から左までの党内はまとまるまいし、そもそも野田氏は、旧民主党を瓦解させた張本人であり、自己主張のみで集団力のない立民の信望を得ていない。
まもなくもっと大きな選挙、アメリカの大統領選がある。ハリス旋風は凪になった。なぜか。人々はさすがに多様性の「行き過ぎ」には辟易だ。トランプの下品さとバランスさせたときに、極左ハリスの価値観が容易に勝てるとは思えない。ここから学べば、立民は左翼の切り捨てをしない限り悪夢の看板を下ろすことはかなわないと断言する。
右翼を切ったがゆえに苦しむ石破首相、左翼を切れないがゆえに展望が開けない野田氏。党内民主主義を主張するあまり、自分の意見を捨て国民の民主主義によって罰された石破。ドジョウが金魚を食べてやるの稚拙な例えでイデオロギーの欠如をにおわせた野田。融通の利かない二人の政治家が今後の日本に影響を与えていくとは、冬の時代の到来ではないか。何よりも、健全な保守は誰が担っていくのか。誰が作り直していくのか。泉下で西部邁先生が地団駄踏んでいることだろう。
新党を創る暇もないとすれば、今あるカードの中で、自民の中では評判の悪い茂木敏充を登場させることだ。
苦難の道の案内は、頭脳明晰、国際性抜群の人材を選ばなければ、日本は滅びる。
[2024/09/29]
安倍政治の終焉
与党内野党の石破茂が、5回目の挑戦で総理の座を勝ち取った。勝つべくして出馬した高市早苗の顔は蒼白であった。この結果の意味は、単純に、安倍政治の終焉であると筆者は観る。
安倍政治の正統な後継者高市は、政治とカネをはじめとする安倍の負の遺産については及び腰だった。日本をもう一度世界のトップに押し上げるという安倍の理想だけを強調した。対して、石破は、アンチ安倍政治であることは明らかだが、明確な方針を語ってはいない。
大平首相以来の「言語不明瞭な」総理の誕生だが、言葉にならない彼の真意を読み取って、いささかの期待をかけるしかあるまい。これまで世の中とかけ離れた自民党内の超右翼集団に対峙し、政治とカネの国民的納得と、夫婦別姓や愛子天皇の実現までやれれば、自民党は、より国民に近づき、保守政党として息を吹き返すかもしれない。
沖縄を棚に上げて、グアムの米軍基地で自衛隊の訓練をやるなどの案は、筆者が思うに、彼の言動が決して欧米社会に好まれない様相であるだけに、外交防衛の分野では、思わぬ障壁に遭うのではないかと危惧する。菅首相と同じく、サミットの輪からはじき出されないようにと願う。
少なくとも、今度の総裁選である程度の刷新感は出た。石破を選んだ自民党のしたたかさだろう。他方の立民は、総理になる可能性が出てきたからと、創設者枝野を差し置いて党首になった野田元首相は、悪夢と言われた民主党時代と変わらず、「金魚の比喩、分厚い中間層」のスローガンを維持している。
言語の下手な石破は早稲田雄弁会の野田に討論では負けるのではないか。しかし、政治経験、思慮深さでは野田を凌駕する。石破に望まれるのは、いま野党が主張しているようなことは大したことはないから皆やってしまえ、ということだ。ただし、財政規律と消費税引き上げ論者の野田の議論に乗るならば、総理の任期は短期になるであろう。
安倍政治は高市の敗退とともに終わった。この機を石破がどれだけ活かせるか、期待と不安が入り混じる。
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